今回のAI翻訳比較アンケートは、中国語繁体字となります。
中国語簡体字が中国本土で使用されているのに対し、中国語繫体字は台湾、香港、マカオなどで使用されています。その他には、世界各地の華人コミュニティにおいても、繁体字が広く使用されています。特に、北米、ヨーロッパ、東南アジアなどの地域には大きな華人コミュニティが存在し、多くの人々が繁体字を使用しています。
中国語繁体字の推定利用者数の合計 約4,168万人以上
- 台湾:約2,350万人
- 香港:約750万人
- マカオ:約68万人
- 海外の華人コミュニティ:約1,000万人(非常に大雑把な推定)
中国語繁体字については、「DeepL翻訳」が対応しておりませんので、「Google翻訳」と「ChatGPT」の2つでの比較となります。
アンケート投票実施要項
- 対象サービス:「Google翻訳」「ChatGPT3.5」の2種
- 言語ペア:日本語から中国語繁体字への翻訳
- アンケート対象者:翻訳業界に従事しており、中国語(繁体字)を理解できる関係者(翻訳チェッカー、翻訳者、翻訳会社社員等)
- 日本語原文:架空の商品に関する説明文
- 備考:アンケート投票時には、先入観をなくすため、どの訳文がどのサービスによるものかは伏せています
日本語原文
エメラルドメロン
<エメラルドメロンの名前の由来>
長い試行錯誤の末、エメラルドメロンが市場にデビューしたのは1992年5月。5月の誕生石はエメラルドであり、南国の太陽の光を浴びた太平洋もまたエメラルド色に輝いていたことから「エメラルドメロン」と名づけられました。
夜須町の温暖な気候を活かしたハウスの中で、エメラルドメロンは1本の苗にたった一玉だけしかつくりません。収穫までの約90日間、最高の糖度を引き出すために水分を微妙に調整しながら育てるのは、たいへん高度な技術が求められます。
美味しく食べるためのポイント
・常温で追熟してください。冷暗所や冷蔵庫の中に入れると熟成しません。
・冷蔵庫で約2時間冷やしてお召し上がりください。長時間冷やすと、糖度が低下します。
【訳文A】
翡翠瓜
〈翡翠瓜名字的由來>
經過長時間的摸索,翡翠瓜於1992年5月首次上市。五月的生日石是祖母綠,「祖母綠瓜」這個名字來自太平洋在熱帶陽光的照射下閃耀著祖母綠的顏色。
在利用安町溫暖氣候的溫室裡,每顆翡翠瓜苗只結出一顆珠子。需要極其先進的技術來種植葡萄,同時精心調整水分含量,持續約 90 天直至收穫,以發揮最高的糖分含量。
吃得美味的秘訣
・請在室溫下熟成。如果你把它放在陰涼、黑暗的地方或冰箱裡,它就不會成熟。
・放入冰箱冷藏约2小时即可享用。如果冷藏时间过长,糖分含量就会降低。
【訳文B】
翡翠蜜瓜
<翡翠蜜瓜名字的由來>
經過長期的試行錯誤,翡翠蜜瓜於1992年5月首次上市。5月的誕生石是翡翠,而沐浴在南國陽光下的太平洋也閃耀著翡翠般的光芒,因此命名為“翡翠蜜瓜”。
在夜須町溫暖氣候的溫室中,翡翠蜜瓜每株苗只結一顆果實。從種植到收穫大約需要90天,期間為了達到最高的糖度,需要精細調整水分,這是一項非常高超的技術。
美味食用的要點:
・請在常溫下催熟。放在陰涼處或冰箱中不會成熟。
・請在冰箱中冷藏約兩小時後食用。冷藏時間過長會導致糖度降低。
アンケート投票
今回のアンケートでは回答数を集めやすいように、以下のように非常にシンプルな質問形式のみとしました。
Q1. A,Bどちらの訳文のほうがよかったですか?(必須)
「A」の訳文への評価(未回答可)
「B」の訳文への評価 (未回答可)
アンケート結果
2024年6月10日現在、回答数は5件で、その5件とも【訳文B】のほうがよかったと答えています。
訳文「A」「B」はどこのサービスなのか?
今回の各訳文は以下のサービスとなっています。
【訳文A】Google翻訳
【訳文C】 ChatGPT
それぞれの訳文に対するコメント
翻訳のチェックを仕事としているプロの翻訳チェッカーが、各訳文に対してどんなコメントをしているのか紹介していきますが、中国語繁体字における基本的なチェック項目は以下となります。
- 訳抜け・訳漏れ(訳していない部分がある)
- 誤訳(間違いがない)
- 誤字・脱字
- 表記(スタイルガイド等に基づく表記)
- 固有名詞など(人名、地名、専門用語等)
- 流暢性(読みやすさ、適切な文章表現)
【訳文A】に対するコメント
中国語文章だけを読んでも変な言葉使いや論理的でない表現があったり、途中「メロン」が「グレープ」になったりしていて、不合格だと思います。 翻訳にも地名などの誤訳もあります。
原稿にない単語(葡萄)が入ったり、テーマのエメラルドメロンの訳語がゴロゴロ変わったり、繁体字と簡体字が混在していることがマイナスポイントです。
誤訳があり、簡体字が混在している
AI翻訳を使った場合、繁体字なのに途中で簡体字が混在しているというのは非常によく見られるケースです。これは他のサービスでも時々起こっていたので、現時点でのAI翻訳全体の課題なのかもしれません。
こちらも不自然な表現や誤訳の指摘が多く、簡体字と同様に「メロン」が途中で「グレープ」になってしまう指摘がありました。
【訳文B】に対するコメント
翻訳としてほぼ問題点がありません。中国語だけを読んでも全然読みやすい文章になっております。
訳文Aのマイナスポイントがなく読みやすいが、口述のような文章ではあります。
符号の誤用、ネイティブ的表現が少ない、簡体字から翻訳した感じが強い
今回「ChatGPT」では、繁体字に簡体字が混在しているという指摘はありませんでした。
「簡体字から翻訳した感じが強い」という指摘は、簡体字も繁体字も元々は同じ中国語なので、漢字を置き換えただけで意味自体は通じたりします。ですが、言語というものは時代によって変わっていくもので、オリジナルから派生して繁体字特有のネイティブの表現なども醸成されていきますので、「繫体字特有のネイティブ的表現が少ない」という指摘につながっていくことになります。
AI翻訳で中国繁体字は鬼門?
中国語簡体字の記事でも指摘しましたが、 AI翻訳ではアジア言語同士の翻訳についてはまだそれほど精度が高くありません。
特に中国語繁体字は「DeepL翻訳」では取り扱ってすらいませんので、やはりそれなりの理由があると考えるべきでしょう。「DeepL翻訳」が中国語繁体字に対応していない理由は不明ですが、以下のような点が考えらえます。
- 簡体字が中国本土で使われているの対して、繁体字のユーザー数が比較的少ない
- 高品質な機械翻訳モデルを作成するためには、大量の翻訳データが必要となるが、中国語繁体字の高品質な翻訳データセットの収集は、簡体字に比べて難易度が高い
- 繁体字は、簡体字と比較して文字の構造が複雑である
- 上記等の理由からコストと利益のバランスを判断している 等々
ですので、AIでの中国語繁体字の翻訳は現時点ではそれなりの品質であることを念頭に置きつつ、AI翻訳に任せきりにせずに、余力があるようであれば人がチェックや確認を行うなどの運用を行っていったほうがいいかもしれません。チェックのみを翻訳会社に依頼するという方法もあるかと思います。
今回ご協力いただきましたみなさま、誠にありがとうございました。
今後も定点的にアンケート対象者を変え、日本語原文のスタイルを変えて、様々な角度からアンケートを取っていきたいと思います。