AIが発達した現在では「翻訳はAIを使って行う」という人も多いのではないかと思います。
これまでAI翻訳で有名だったのは「Google翻訳」と「DeepL翻訳」といったサービスでしたが、昨年話題になった生成AIの「ChatGPT」の登場により、翻訳にも「ChatGPT」を利用するという人が増えているようです。
ここではそんな「ChatGPT」で翻訳した際に失敗しないポイントや活用術で翻訳業務を楽にする方法をご紹介したいと思います。
一つの原文で無限の可能性、それが「ChatGPT」
「Google翻訳」や「DeepL翻訳」はAIが翻訳をすることに特化したサービスですが、「ChatGPT」は生成AIであり、どんな質問にも対応することが可能です。
「Google翻訳」や「DeepL翻訳」では正確性や流暢さを重視していることもあり、例えば日本語の原文を英語に翻訳する場合、日本語の原文が全く変わらない同じ内容であれば、常に英語に翻訳した訳文の結果は同じになります。
ですが 「ChatGPT」を翻訳に利用した際には、訳文の結果が一つとはなりません。よく言われていますが「ChatGPT」の回答の質は、質問(プロンプト)の仕方によって大きく変わってきます。よって、プロンプト次第で翻訳の結果は様々で、訳文も無数に存在することになります。
それをマイナスと捉える人もいるかと思いますが、翻訳結果の訳文を調整出来るというのが「ChatGPT」の大きな特徴でもあります。
例えば「今回は原稿がプレスリリースなのでプレスリリースらしく翻訳して欲しい」「論文なので論文調で翻訳して欲しい」「SNSに投稿するので口語調で」等、プロントで指示をすれば要望に応じた文章表現スタイルをAIが考えて結果の訳文に反映してくれます。
従来の翻訳者や翻訳会社といった人間が対応する翻訳では、訳文の背景や利用目的をヒアリングして、依頼者のニーズにあった訳文を提供していたことを考えると、ある意味では人間が翻訳するのに一番近い形式なのかもしれません。
ただ、自由度が高く、工夫次第で何でもできるが故に、プロンプトで細かい指定などをきちんとしないと、自由過ぎる訳文が出来上がってしまう可能性がありますので、その辺りは注意が必要となります。
それでは「ChatGPT」に指示を出す際にどういう点に注意すればいいのか?
今回は日本語から英語に限定していくつかポイントをあげてみたいと思います。
「ChatGPT」に「あなたはプロの翻訳者です」と言い聞かせる
最近 「ChatGPT」 に関する書籍などでよく言われていますが、「ChatGPT」 に人間の役を与えてみましょう。
例えば、日本語から英語の翻訳であれば「あなたは英語ネイティブのプロ翻訳者です。」と最初にどんな役なのかを明確に指示するとよいでしょう。 これによって、こちらが「どのレベルの訳文を望んでいるのか」も明確になり、「ChatGPT」 はその役に沿った回答をしてくれます。
ほとんどの場合は翻訳結果の品質がよいにこしたことはないと思いますので、他にも「プロの翻訳者が英語に翻訳するレベルで」など求める要求レベルがどこにあるのかを設定してあげるとよいでしょう。
利用目的にあった文章表現のスタイルを指示する
上述のように「ChatGPT」は、文章表現や文体、スタイル等を指定できる現時点では数少ない生成AIのサービスとなります。
人間の翻訳者に依頼する際のように、もしくは翻訳会社に問合せをするのと同じように、どういう利用目的でどういう媒体に使う訳文なのか詳細を入れつつ指示を出すと、より目的に適した翻訳結果を回答してくれます。
例えば「プレスリリースで利用するのでプレスリリースに適した英語表現で」など、利用目的に沿った具体的な指示を出すと、相応しい仕上がりに調整してくれます。
「ChatGPT」に「あなたはプロの翻訳チェッカーです」と言い聞かせる
一度AIが日本語から英語に訳したものを、再度AIに校正させていくことで翻訳の品質をどんどん向上していきます。「ChatGPT」が翻訳したものを「ChatGPT」が校正することに違和感がある人は、「DeepL翻訳」が翻訳した訳文を「ChatGPT」に校正させるという方法もあります。
日本語から英語への翻訳であれば「DeepL翻訳」も相当レベルが高いので、「ChatGPT」で校正をかければ、かなりの高品質な仕上がりが期待できます。
「ChatGPT」 では一度出された回答に対して、追加のプロンプトを提示することで、回答の精度を高めていくことが出来ます。これも他のAI翻訳サービスとは異なる点です。ですので、最初の プロンプト に指示のすべてを記載する必要もありません。まずは使ってみて、「ChatGPT」と会話をするかのようにして、最終的な回答に導いていくことが大事です。
英訳の場合、まずはChicago Styleと指示すべし
文章のスタイルガイドとは、文章作成の際の一貫した規則やガイドラインのことで、文法、句読点、つづり、引用形式、レイアウト、フォーマット、用語の使用方法など、文章作成に関する様々な要素を詳細に規定されています。
日本語表記のスタイルガイドであれば、日本翻訳連盟(JTF)等がスタイルガイドを出していますが、「ですます調」と「である調」の統一だったり、表記ゆれ等をなくすためのガイドラインとなっています。
英語表記のスタイルガイドについては、様々な団体や期間が定めており、例えば以下のうなものがあります。
- The Chicago Manual of Style (CMOS):
出版業界、学術論文、書籍の編集で広く使用されるスタイルガイド - Associated Press Stylebook (AP Stylebook):
ジャーナリズムや報道機関で一般的に使用されるスタイルガイド
こちらがきちんと守られていない文章は、日本語で例えるなら句読点の使い方がおかしい文章をずっと読まされるようなものですので、英語ネイティブからすれば違和感満載で頭に入って来ない文章になってしまいます。
ですので、最初の指示もしくは校正の段階で「英語表記のスタイルガイドに準ずる形式で」という内容を入れたほうがよいでしょう。
米国式英語と英国式英語、どちらでいくのか?
英語には厳密に米国式と英国式があります。こちらは何が違うかというと、単語の用法などもありますが、カンマの打ち方など、上記のスタイルガイドに基づく表記に違いがあります。例えば、英国式であれば「 ‘(シングルクオテーション)」を使い、米国式では「”(ダブルクオテーション)」を使うなど。
通常翻訳会社ではお客様からの指示がない場合は米国式の英語に翻訳するいう会社が多いのですが「ChatGPT」の場合必ずしも米国式がデフォルトという訳ではないようですので、こちらも最初の指示もしくは校正の段階で米国式か英国式かを指示しておいたほうがよいでしょう。
逆翻訳で正しいことを証明する(バックトランスレーション)
翻訳された文章の意味に間違いがないか不安だという場合は、AIが一度日本語から英語に翻訳した英語の訳文を、今度は逆にAIで英語から日本語に翻訳してみましょう。
これはバックトランスレーションと言われる、翻訳会社の品質調査などでもよく使われる手法で、人が翻訳した訳文に間違いがないかチェックする際に実施されることがあります。
これで逆翻訳された日本語と原文の日本語の意味が合っていれば、AIが翻訳した英語に間違いがないということが証明されます。
ChatGPTに翻訳を指示する際のプロンプト例
上記のポイントを反映させて「ChatGPT」に翻訳を指示する際のプロンプト、その参考例をいくつか下記にあげておきます。以下のように詳細に指示を出していくと「ChatGPT」の精度もさらによくなるのではないでしょうか。(場合にはよってはもっと詳細に)
日本語から英語への翻訳
あなたはプロの英語ネイティブ翻訳者です。この日本語の文章を、The Chicago Manual of Styleに従った米国式英語に翻訳してください。文章はフォーマルなトーンで、ビジネス文書として適切なスタイルにしてください。以下の日本語を翻訳してください。
[翻訳したい日本語の文章]
既存の英語文章の校正
あなたはプロの英語ネイティブ校正者です。この英語の文章をThe Chicago Manual of Styleに従って校正し、必要に応じて修正してください。文法、句読点、つづり、および引用形式に特に注意してください。
[校正したい英語の文章]
英語の文章作成
あなたはプロのライターです。以下のトピックについて、The Chicago Manual of Styleに従った英語で記事を書いてください。文章はフォーマルで、学術論文に適したスタイルにしてください。
[トピックや要点の詳細]
文章スタイルと追加指示
あなたはプロの英語ネイティブライターです。以下の文章をThe Chicago Manual of Styleに従って英語で書いてください。文章はフォーマルなトーンで、ビジネス文書として適切なスタイルにしてください。また、文章の構造と流れが自然で一貫していることを確認してください。
[トピックや要点の詳細]