近年注目を浴びている「医療ツアー(メディカルツーリズム、医療観光)」。メディカルツーリズムとは、治療や検査、健康診断、美容整形などを目的に外国から訪れる旅行のことを指します。日本の医療技術の高さや信頼性、安全性を求めて、多くの外国人が日本を訪れています。また、医療ツアーの合間に観光も楽しむことができて、医療とリラクゼーションの両方を満喫できますというメリットもあります。
医療ツーリズムの増加傾向
少々古いデータとはなりますが、観光庁によると2015年時点で訪日外国人観光客のうち医療を目的に訪れた人は年間1万人を超えていると推定されていました。 また、日本医療観光推進機構の報告では2016年頃から医療ツーリズムに関する関心が高まり、日本を訪れる外国人患者の数は年々増加しているとされています。特に、中国、ロシア、中東諸国、東南アジアなどからの訪問者が増えているとされています。
日本の主要な医療機関では積極的に医療ツーリズムの受け入れを行っており、特に東京、京都、大阪などの都市が人気で、北海道や九州地方でも医療ツーリズムの推進が進んでいます。
以下に、成功している事例をいくつかご紹介します。
医療ツーリズムで外国人集客に成功している日本の医療機関や地域
聖路加国際病院(東京)
特徴:
- 高度な医療技術:最新の医療設備と高度な医療技術を持つ病院で、特にがん治療や心臓手術で知られている。
- 多言語対応:英語をはじめとする多言語での対応が可能で、外国人患者向けの専門窓口がある。
- 国際患者支援:医療通訳や翻訳サービス、国際患者コーディネーターが在籍しており、患者の治療プロセスをサポート。
亀田総合病院(千葉)
特徴:
- 包括的な医療サービス:内科、外科、整形外科、婦人科など、多岐にわたる診療科目を提供している。
- 多言語対応:英語、中国語、韓国語などでの対応が可能。
- 患者支援:外国人患者専用の窓口を設置し、医療通訳やサポートスタッフが在籍していまる。
九州大学病院(福岡)
特徴:
- 研究と臨床の融合:最新の医療研究と臨床実践を融合させた高い医療技術を提供。
- 国際的なネットワーク:海外の医療機関との連携や共同研究を行っており、国際的な評価が高い。
- 多言語対応:英語を中心に多言語での対応が可能。
大阪大学医学部附属病院(大阪)
特徴:
- 先進的な医療:再生医療や高度な外科手術など、最先端の医療技術を提供。
- 国際患者支援:外国人患者専用の窓口や医療通訳、国際患者コーディネーターがサポート。
- 教育と研修:医療スタッフの国際対応能力を向上させるための教育と研修プログラムが充実している。
北海道大学病院(札幌)
特徴:
- 多岐にわたる診療科:内科、外科、整形外科、小児科など、多岐にわたる診療科を持つ総合病院。
- 研究と実践:大学病院として、医療研究と実践を兼ね備えている。
- 多言語対応:英語、中国語などでの対応が可能で、外国人患者に対する支援体制が整っている。
美容クリニックのサイト多言語化対応
東京や大阪の美容クリニックでは、最新の美容整形手術やスキンケア治療が受けられるということで、韓国や中国からの観光客に人気があります。そうした美容クリニックでは、WEBサイトの多言語化対応等も積極的に行われており、ここでは英語よりもむしろ中国語や韓国語での多言語化が優先されているケースなども多く見受けられます。
また、こうした「美容・健康増進」を目的とした医療ツーリズムでは、 美容エステやスパ、森林療法、海洋療法など、比較的医療よりも観光の比重が大きくなっているという傾向もあります。
特に外国人患者に人気のある美容クリニック
湘南美容クリニック(全国)
特徴:
- 広範なサービス:二重まぶた整形、フェイスリフト、脂肪吸引、レーザー治療など、多岐にわたる美容医療サービスを提供。
- 多言語対応:英語や中国語を話せるスタッフが在籍しており、外国人患者に対応可能。
- アクセスの良さ:全国に多数のクリニックを展開しており、主要都市でのアクセスが容易。
銀座高須クリニック(東京)
特徴:
- 高い信頼性:日本国内で長年の実績があり、信頼性が高い。
- 多言語対応:英語を話せるスタッフが在籍しており、外国人患者にも対応。
- 幅広い治療:美容外科、皮膚科、アンチエイジング治療など、多様なサービスを提供。
TBC(東京、大阪)
特徴:
- エステティックサロン:美容医療だけでなく、エステティックサロンとしても高い評価を受けている。
- 国際的な知名度:外国人観光客にも広く知られており、信頼されている。
- 多言語対応:英語、中国語、韓国語など、多言語での対応が可能。
美容外科形成外科クリニック「聖心美容クリニック」(全国)
特徴:
- 高い技術力:美容外科と形成外科の高度な技術を提供。
- 多言語対応:外国人患者向けに英語や中国語での対応が可能。
- 個別対応:患者一人ひとりに合わせたカスタマイズされた治療プランを提供。
オバジクリニック(東京)
特徴:
- 皮膚科専門:特にスキンケアやアンチエイジング治療に強みがある。
- 多言語対応:英語での診療が可能で、外国人患者の受け入れ体制が整っている。
- 国際的なブランド力:ドクターオバジの名前で知られる、国際的なブランド力が高い。
六本木ヒルズクリニック(東京)
特徴:
- ラグジュアリーな環境:六本木ヒルズという高級地に位置し、ラグジュアリーな環境での治療を提供。
- 多言語対応:英語、中国語を話せるスタッフが在籍しており、外国人患者にも対応。
- 高度な美容医療:美容外科、皮膚科、アンチエイジングなど、多様な治療を提供。
地元地域病院の多言語化対応
そうしたメディカルツーリズムとは別に、多言語対応の必要性に迫られているというケースもあります。
日本で増加し続けている在留外国人、各地域に居住している在留外国人は当然ながら自分が住んでいる地元地域の病院を利用します。そうした在留外国人に対応する必要性があって、多言語化対応を進めなくてはならないという病院も少なくありません。
そうした病院では外国人人材を採用したり、コミュニケーションを取る際に自動翻訳してくれる端末を導入するなどで多言語化に対応していますが、そちらもまだまだ充分足りているとは言えない状況のようです。
在留外国人、病院で診察を受ける際の困りごと
法務省の出入国在留管理庁の「令和2年度 在留外国人に対する基礎調査の調査結果の概要」では、在留外国人が「日常生活において抱えている困りごと」として以下のような内容が挙げられています。
こちらの画像では見づらいかと思いますので、改めて。
病院で診察等を受ける際の困りごと
1位 病院で症状を正確に伝えられなかった(24.1%)
2位 どこの病院に行けばよいか分からなかった(23.1%)
3位 病院の受付でうまく話せなかった(15.9%)
1位と3位ではコミュニケーション・言葉の壁、2位は多言語での情報発信が充分ではないことが問題となっています。
地元地域病院のWEBサイト多言語化対応
いくつかの地域病院に話を伺ったこともありますが、病院サイドではWEBサイトの多言語化について以下のような意見が多く聞かれました。
サイトの多言語化に費用をかけても……
- そもそも外国人の来院数が増えても、それに対応できるだけの準備ができていない
- 現状の外国人来院数の数から考えても、費用対効果があるとは思えない
- 端末数を増やすなど現在来院している外国人対応を充実させることに優先して予算を使いたい
JMIP認証医療機関
その一方で、WEBサイトの多言語化を検討しなくてはならない理由もあります。
日本医療教育財団が運営するJMIP(Japan Medical Service Accreditation for International Patients)認証という資格制度があります。こちらは訪日外国人患者に対して適切な対応が行える医療機関をJMIPが認証する制度で、全国で74の病院が認証されています(令和4年9月現在)。
JMIP認証では、外国人患者に対して適切かつ質の高い医療サービスを提供できるよう、医療機関の体制を整えることを目指しており、英語をはじめとする多言語での対応が可能であること、医療通訳や翻訳サービスといった多言語対応の医療スタッフの配置が求められています。また医療機関内の標識、案内、診療記録なども多言語対応が必要です。
さらには、外国人患者が利用しやすい医療サービスを提供するために、ウェブサイトの多言語化が重要な要件となっています。言語については、英語を基本として、地域の外国人患者のニーズに応じた言語(例:中国語、韓国語、スペイン語など)を追加することが定められています。
そのため、JMIP認証を受けている医療機関は、WEBサイトを多言語化していかなくてはならず、また前述のような予算の問題などもあるため、今後どのように対応していくか、その対処法を模索しているといった状況です。
実施している病院例
- 聖路加国際病院(東京):
- 英語、中国語、韓国語などで情報を提供し、外国人患者が利用しやすいウェブサイトを運営しています。
- 亀田総合病院(千葉):
- 英語の詳細なウェブサイトがあり、診療内容や予約方法などの重要情報を多言語で提供しています。
急速な在留外国人の増加に追いつけていない日本の生活インフラ
医療ツアー(メディカルツーリズム)で多くの外国人を集客している一方で、地域病院などでは在留外国人に対応することが喫緊の課題となっているという現状があります。病院は生活インフラのひとつでもあるだけに、在留外国人にとっては大きな問題と言えるでしょう。
ただこれは、医療業界に限ったことではなく、自治体や福祉、さらには電気・ガス・水道等々をはじめとするすべての生活インフラに関わる業界でも同様の事態が起こっており、現在関係各所は多言語化対応を推し進めているところです。
鉄道等の公共交通機関では多言語での案内表示などが比較的早くから対応していたので、日本の多言語化対応は進んでいるように思えてしまいますが、まだまだ 急速な在留外国人の増加に、日本の生活インフラに関する部分が追いつていないというのが実態のようです。